東京大学社会科学研究所助教授玄田 有史先生に学ぶ
自分が今おかれている状況に不安感を持ったり、何がしたいのかはっきりわからないような気持ちになった時に、このページを見てくれたら・・・。時々そういう状態になる私は、玄田先生の講演を聞き、書かれたものを読んで、とっても励まされました。あなたにも、おすそわけできたらいいなあ・・・・・
玄田先生プロフィール

玄田有史(げんだ ゆうじ)氏
1964 島根県生まれ。
東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学
学習院大学経済学部専任講師、助教授、教授を経て
2002年より東京大学社会科学研究所助教授。
2002年 経済学博士号取得。専門は労働経済学

主要著書
「仕事のなかの曖昧な不安」(中央公論新社、2001年)日経・経済図書文化賞受賞、サントリー学芸賞受賞
「リストラと転職のメカニズム」(東洋経済新報社2002年)

主な公職
内閣府青少年の育成に関する有識者懇談会委員、厚生労働省女性の活躍推進協議会
経済産業省男女共同参画研究会メンバー
玄田先生が、執筆された文章です。クリックしてね!

「ネットワーク」についての私的体験.
プレジデント(玄田)「働くことの悲しさ」
日本経団連エッセイ(玄田)「多様化の「化」
文藝春秋臨時(玄田)「うすくつながって生きる」
2003年2月6日北海道白老町で開催された男女共同参画フォーラム2003より
                                     (中谷がまとめさせていただきました)

          個性は性を超えて
              〜一人一人が活きる職場をつくる〜

この講演内容の全文が読めます!白老町役場企画課の方が講演の全文を報告書用にまとめられました。このHPでも掲載させていただける事になりました。オートバイをクリックしてね!

1.去年と今年と、18都道府県で、おはなしをしてきました。

 縁あって、経済産業省男女共同参画研究会のメンバーをさせていただいたり、2001年7月から厚生労働省女性の活躍推進協議会に委員として参加させてもらう中で、たくさんの方のお話をうかがうことができました。また、ここ2年ほどで、18都道府県で、男女共同参画について、話をさせていただく機会を得、ここでもまた、多くの方との出会いがあり、勉強させてもらいました。
 今日は、その出会いの中で、私自身が学ばせていただいたことをみなさんにお伝えしたいと思います。
 企業のトップの方たちが、本気で「中高年の男性中心のしくみを変えていかなければいけない」「そのために行動を起こしていかなければならない」という雰囲気が、あちらこちらで出てきたな・・・というのが実感です。
 『理屈ではなく、実際に行動していかなければならない』というのがポジティブアクションということなのですが、このポジティブアクションを社会全体で本気になって進めなければ・・・ということを企業のトップの方が、どんどん話されているのです。

2.いろいろな経営者や働いている方々にお話を聞きました。

 (トヨタ・オムロン・リコー・資生堂・日本IBM・日産自動車・松下などのトップの方の具体的なお話を紹介されました。・・・・・注:中谷)
 男女共同参画や、それを実現するためのポジティブアクションに、「なぜ、興味・関心をもたれたのですか?」と質問してみると、次の2つの答えを得ました。
@原点に戻る必要性があるから。
先の見えない現状では、「わが社の経営理念(原点)」にもどる必要がある。原点とは、個人尊重・能力主義・お客様中心なのだから、当然、「個性は性を超えた、一人一人が活きる職場をつくらなければならない」
A少子高齢化がこれからもどんどん進み、労働力人口が減少するため。

3.「男女共同参画」へ疑問にも率直に答えなければなりません。

例えば、よく言われることとして。
「男女共同をやって、なんの意味があるんだ!利益にならないじゃあないか」という疑問には。
「環境問題を考えてみてください。10年前まで、誰が今のような評価をしたでしょうか。「ISO」などの環境問題に取り組むことによって、「ここにこんな問題があったのかがわかる」のです。」

「男と女は違うんだから、同じにしなければならないというのは、おかしい」
「男と女を一緒にすることではありません。これまで、男性の大多数をメインにした(とって良い)しくみを、少し変えていかなければならないのではないか、ということです。

4.性別に関係なくイキイキとみんなが働くには、3つの柱がありました。

@経営者(トップ)が愚直に言い続けること
経営者つまり責任のある人が、男女共同について本気になり、愚直に言いつづけると変わってくるんですね。すぐには変わらない、持久戦になるけれど、言いつづけると、変わるのです。トヨタの方は、「変わらないことが罪なんだ」とおっしゃっていました。

Aポジティブアクションを職場全体のプロジェクトにしなければならない
そのためには、まず、全社員(職員)が一丸となって、問題点をあらいざらい出してみる必要があります。これまで当たり前になってしまって、見逃そうとすれば見逃せるようなこと、(例えば女性が転勤しにくいなど)、これをガラスシーリング(ガラスの天井)というのですが、そういうことを、ひとつずつ出し合うことが大切です。

B具体的でわかりやすい目標をつくる
これは、ポジティブアクションのことです。このわかりやすい目標をトップが、繰り返し言いつづけることが重要です。

5.でも、柱だけでは家は立ちません。大事なことがありました。
行政や会社だけではなく、一人一人にやるべきことがあります。


それは、何気ない言葉や行動を変えていくことです。

良い仕事をしている女性に、「なぜ、生き生き仕事ができると思うか」と尋ねると、共通した答えが、「運が良かった。」「上司に恵まれたから」と言うものです。その上司の何気ない言葉や行動のありようで、「性を超えて」一人一人が活きる職場になるということでしょう。

「言葉」というのが、とても大切だと思うのですが。
例えば。30年来専業主婦としての役割をしっかり守ってきた妻が、ある日ひどい風邪を引いたそうです。朝、寝床から起きあがれない妻に、やさしい夫は、「いいよ、朝ご飯くらい自分で食べて行けるよ」と言いました。会社から帰宅してもまだ起きあがれない妻に、「いいよ、いいよ、無理しなくても。オレ、外で食べてくるから・・・」と言ったそうです。その時、妻は落ち込みました。「私の30年って、なんだったのかしら」と。・・・・・・・・・さて、この話を聞いてみなさんはなぜ、この妻はがっかりしたのかわかりますか?女性の方はわかりますよね。ところが、多くの男性はわからないんですよ、ほんとうに。教え子の大学生にこの話をしたら、「きっと、30年間プライドを持って全うしてきた主婦業をできなかったことに対する悔しさではないか、夫への申し訳ない気持ちではないか」と述べた男子がいました。起きあがれないほど具合が悪かったら、当然、おかゆのひとつでも作ってほしい、外食しても良いから、帰りにうどんのひとつでも買ってきて作ってほしいですよね。男だから女だからではなく、個人として大事にされたいですよね。ところが、気がつかない男性が多いんです。何気ない言葉や行動の中で、男女平等つまりひとりひとりを大切にすることが阻まれてしまっているんですね。

「言葉の大切さ」について、もうひとつ。
ぼくは、人を励ます言葉について考えるんですが。「がんばれ」というのは、ふさわしくないことが多い。
これは、作家の村上龍さんが言ってたことなんですが。「今ある状態を続けるのが最大唯一の目標である人」に対してだけ、「がんばれ!」は有効だろう。けれども、不安感があったり、先が見えない人に対して、「がんばれ!」と言うことは、励ましにならないばかりか、罪である。
不安感をもったり、先行きが見えない人・・・・・多くの若者や転職を考えている人、子育てと仕事の両立に悩んでいる女性や産後うつ病の女性など・・・・・・・に対しては、その人の状況をみて、どれだけその人に必要な事を言えるか、情報をつたえられるか、その人が自ら選択するためのきっかけを提供できるかが、上司や親、大人の役目となるだろうと思うのです。

働く女性は、不安だったり、先が見えない状態におかれている人が多いのですが、そういう状態の人には、こういう話しをさせてもらうことが多いのです。
僕は、転職したいけれどなかなかできない人と話をすることも多くて、同じような気持ちの人が多い。で、同じ転職を希望する人でも、どういう人が成功していくかというと、「自分と違う日常を生きている人とつながっている人」なんです。つまり、自分の職場以外に、他の会社の友人とか、自分と違う日常を生きている人と交わり、大事な情報を受け取っている・・・ということなのです。これを、ある社会学は、『WEAK TIES(弱いつながり)』と表現している。同じ集団のかたいつながりである『STRONG TIES(強いつながり』は、安定感があり良い面もあるけれど、自分のやりたいことがみつからない、自分の可能性をみつけたいというような時は、強いつながりの中にいても見つからないことが多いということです。
「弱いつながり」を大事にして、自分と違う日常を生きている人と話し、彼らを鏡にして自分を見つめなおしてみる。その時、もうひとつ大事になるのが、「自分はどういう生き方をしてきたのか」「自分は、どういう仕事をしてきたのか」を、へたでもいいから、自分の言葉で語れる、心の中で言葉にできる・・・ということです。

職場にしても、社会にしても、これまでの「男性だけの強いつながり」をひらいて、うすく広いネットワークをつくることが、必要であるということです。
参考(ポジティブ・アクション)
ポジティブ・アクションとは、固定的な性別による役割分担意識や過去の経緯から、男女労働者の間に事実上生じている差があるとき、それを解消しようと、企業が行なう自主的かつ積極的な取組みのことです。
(たとえば)
○女性が少ない職場への積極的な採用・登用 ○女性社員に対する教育・研修の実施 ○性別により評価しないための人事考課基準の明確化 ○男性社員に対する啓発 など