恵庭市立図書館ブックスタートの取り組み
恵庭子ども読書推進ネットワーク開発実行委員会
全道各地で、古くから展開されている子育て支援の活動として、『読み聞かせ』があります。
このブックスタートの試み(ブックスタート支援センターのHPをご覧ください
http://www.bookstart.net/)は、その目的・方法論とも、大変意義のある子育て支援なので、
各地の読み聞かせの活動の幅を広げる形で全道に広がってほしいですね。
ちなみに、恵庭さんから学びながら、今年4月から白老町でも実施の予定です。
恵庭市立図書館の中島館長さんのお話には、ぐっとこみ上げるものがあります。
ぜひ、お読みくださいね。
赤ちゃんに絵本を!恵庭市の「ブックスタート」検診時に贈呈*読み書き能力育てる
(北海道新聞朝刊・2001年1月8日)
 
「ほら、読んであげると本の絵にじっと見入っているでしょ。ちゃんと興味を示しているんですよ。」
 恵庭市保険センターで昨年行われた9・10ヶ月児検診。会場に待機した市立図書館の職員とボランティアは、検診を終えた親子に、ブックスタートの意義を説明し、約30組の親子に絵本2冊と市立図書館利用案内などが入った「ブックスタートパック」を手渡した。
 9ヶ月の長女の検診に来た主婦(24)は「3歳の長男が最近やっと本に関心を示したばかり、娘は本を見ても集中できないので、本を読んであげるのにはちょっと早いかなと思っていました。今度は上の子と一緒に読んであげようと思います。」
 別の主婦は(29)「9ヶ月の次男は絵本を見ても破ったり、食べたりしちゃうんですが、本を好きになるのはいいこと。これを機会に試しに読んでみます。」と興味を示していた。
 恵庭市の試みに協力した道文教短大幼児教育学科の梶浦真由美講師は「一般的に、赤ちゃんは快・不快だけを訴える存在というとらえ方がありますが、6・7ヶ月頃から、絵を見つめたり、触ったりして絵本に興味を示すようです。小さい時から本に親しんできた子どもが、今後どのように成長するか楽しみ」と話す。
 ブックスタートは、1992年、英国第2の都市バーミンガムで、子どもたちの識字率の低下、活字離れ対策のための運動として始まった。
 バーミンガム大学のその後の調査で、ブックスタートパックを渡した家庭ほど、親子ともに本に親しむ時間が増えたり、子どもの読み書き能力が向上するなどの効果が出たことが分かり、現在では英国の90%の自治体に広がっている。
 国内では、財団法人「子ども読書年」推進会議が、「赤ちゃんと親が本を通して楽しいひとときを作る運動」として導入を図り、昨年11月、東京都杉並区の3百家族を対象にブックスタートパックの配布を試験的に開始。恵庭市では、同会議のマニュアルを基に、12月と今月11日の9・10ヶ月児検診で試験的に導入することになった。
 恵庭市では道文教短大と協力して、ブックスタートパックを配った家族の追跡調査を行い、親子の反応やブックスタートの効果を検証する考え。
 市立図書館の中島興世館長は「自分の気持ちを表現できず『キレる』子どもたちが社会問題となっている。本に親しむことで、子どもの情緒や表現能力を高め、少年問題の早期予防や子育て支援につながればいい」と期待している。
ブックスタート支援センター理事会での中島館長さんの発言原稿(東京 '01,11,27)を紹介します。
ブックスタートを進める時の大きなヒントになると思います。

 先ほど見ていただいたビデオは、昨年12月に行った最初のブックスタートの状況をNHKのニュースで放送していただいたものです。
 以来、毎月1回40、50人程の赤ちゃんに配布しています。アンケートを取っているのですが、反応はとてもすばらしいものです。生の声をいくつか紹介させていただきます。 

・ 大変良い事業だと思います。本を子どもにプレゼントしてくれるなんて、とても文化的な自治体だと思います。恵庭市に住んでいることに、誇りを感じることのできる事業だと思います。また、図書館の方が作成してくださった本の紹介パンフレットが素晴らしいです。いただいた絵本は、子どもが大好きで親が読む以外でも一人で「ばあっ」「ばあっ」とめくって楽しんでいます。親子で楽しんでいます。

・ お土産やプレゼントという形でもらったと思いますが、すごく嬉しかったです。何か自分にプレゼントされたようで、嬉しかった。結婚して子どもを産んで、生活が全部子ども中心になって、プレゼントなんてあまりなかったので、二人でもらえた感じだった。多くのお母さんが孤独だと思うので、これを機会に図書館などに行って、いろんな人と接したい。

・ 期待以上のものがそろっていて、とても満足しています。ありがとうございました。絵本は以前からそろっていましたが、いつ頃から見せようかと思っていました。まだまだ……と思っていましたが、こんなに興味を示すとは思いませんでした。きっかけになり本当に喜んでいます。

・ 9〜10ヶ月で本に興味があることは、あまり知りませんでしたから、知れてうれしい。パック配布は、とてもうれしい。もらった本は、大切にお嫁に行くときまでとっていたいと思います。

・ パック配布についてとてもありがたく満足しています。私には3人の子どもがいますが、上の2人の子は、6ヶ月位から毎日本を読んであげる時間がありましたが、3人目になると毎日の生活に追われてなかなか読んであげる時間がありません。でもこれを機会に少しでも時間を作って読んであげたいと思うようになりました。また「赤ちゃんの絵本ガイド」は、とても参考になりました。新しい本が来たせいでしょうか、上の子どもたちが下の子を抱っこして本を読んであげたりもしていて、とてもほほえましく思います。


世界で最も豊かな国といわれる日本で、この程度のことでこんなに喜んでくれる。寄せられる声に思わず涙ぐむことがあります。私たちはときに若いお母さんに子育ての仕方がなっていないと批判したりしがちなのですが、そんなことより少しでも支えてあげることを考えてあげないといけないのではないかと感じたりします。

恵庭のブックスタートはなかなかうまくいっていると思うのですが、その要因は次のようなものです。

@ 市民・ボランティアとの協同・コラボレーションが理想的な形でできている。最初からボランティアと相談しながらブックスタートの準備を進めてきました。昨年9月に白井さん、佐藤さんに講演をお願いしたのですが、その講演会もボランティアの主催で行いました。予算が付かないとなると、ボランティアが陳情・要請活動に立ち上がってくれる。そして付いた予算が通年実施には足りないとなると市民からの寄付が相次ぐといったことがありました。今年のブックスタートの予算は半分以上市民の寄付によってまかなわれています。またビデオでも見ていただきましたが、ブックスタートの会場で実際に赤ちゃんに読み聞かせをしてくれているのはボランティアの方々です。

A
保健センターとの協力がとてもうまくいっています。3年程前から妊婦教室や、6ヶ月児の乳児を対象にしたのびのび教室で、読み聞かせ指導を続けてきていたのです。母親が理解してくれているのか疑問だったということなのですが、保健婦さんは毎回聞いているわけです。そうしますと保健婦さんが読み聞かせの大切さをしっかり理解するようになっていたのです。ですからブックスタートをしようと呼びかけたときに、保健婦さんの反応はとても好意的だったのです。タテ割り行政の克服は難しいことであったりするのですが、私たちはとてもスムーズにいっているといえます。北海道のいくつかの自治体で予算がないというので、絵本のプレゼントはできないが、まず乳児検診会場で読み聞かせから始めるところが出てきています。こうして一歩一歩進めていくほうが長い目で見てより良い結果を生むことになるかもしれません。

B
図書館スタッフの気合が違う。どの世界でも新しいことを始めようとすると抵抗勢力に出会います。ブックスタートの予算付けをお願いすると、理念は分かったで終わりです。市民が陳情活動をしますと、一度だめだと判断したにもかかわらず市民を動員して復活しようとするのはルール違反だといってきます。いずれにせよ何かしようとすると困難は避けられません。しかし障害が大きければ大きいほど、嵐が若木を育てる、嵐があるからしっかりした根を張るのと同じように、しっかりした取り組みになります。トップに言われたから、議会で言われたからやるというのでは本物にはなりません。恵庭のブックスタートは、多くの抵抗に出会い、そのたびに決意を新たにして、それらを克服してきたということがあります。

ブックスタートのこれからの展開について少し話をします。
 ブックスタートのフォローアップ事業をするボランティア団体が旗揚げしました。これは赤ちゃんへの読み聞かせをすることを目的にした「ゆりかご会」という団体なのです。読み聞かせといいますと、これまでは小学校での読み聞かせとか、3〜5歳程度の子どもを対象にしています。3歳未満時の赤ちゃんへの読み聞かせは家庭内で行うこと、母親の責任であると意識されてきたといってよいのではないでしょうか。しかし赤ちゃんへの読み聞かせこそ大切です。ゆりかご会は赤ちゃんへの読み聞かせへの関心を喚起して、社会化しよう、皆の力で支えようとするものです。

ブックスタートをしてみて分かったことなのですが、高齢社会ですから赤ちゃんのために力になりたいという潜在的な力はとても大きなものがあります。他方で育児に悩んでいらっしゃる方がいる。これをつなぐ活動が今求められていると思うのですが、ゆりかご会の活動はその先駆的な運動としてとても大きな可能性を感じています。
現在、キリン福祉財団から58万円助成いただいています。これで月一回赤ちゃんと母親に集まっていただき、読み聞かせのほかにどんなことをしていったら良いか、さまざまな分野の指導者の指導をいただきながら実践と研究をしています。

今後、より大きな運動を作っていきたい。今、考えていることは、まだコンセンサスを得ていないのですが、次のような社会実験に挑戦してみたい。
ボランティアの方々が地域の会館で絵本の貸出をしてみてはどうかということなのです。週2〜3回、1回2〜3時間で良いと思うのですが。絵本の書架は移動式でよいでしょう。書架を持ってきてカーペットでもひいて店開きする。子育てサークルに参加するのをためらったりしている人も、絵本を借りるということであれば、とても敷居が低く、参加しやすくなるのではないでしょうか。赤ちゃんを連れてくると、読み聞かせをしたり、遊んでくれる。そして育児の悩みも聞いてくれる。そんな育児を支えるコミュニティを作っていきたいのです。

戦後50年間、私達は近代的自我の確立や個人の確立が大切だとして、農村共同体や日本型家族制度を時代遅れの封建的な制度としてきました。それで得たものはとても大きい。しかし失ったものも大きいのではないでしょうか。過去に戻ることは出来ません。だから子育てを支える新たなコミュニティづくりが私達に求められているのだと思うのです。
人間は共同体の中で初めて人間として十全足りうる生命体ではないでしょうか。人間は共同体の中で成長し、進化してきたと思うのです。しかし今、子育ては密室の中で母1人、子1人といった環境の中で行われるようになってきています。そこにとても大きな問題があるように感じるのです。絵本と読み聞かせを突破口に育児を支えるコミュニティづくりを試みることに大きな可能性と特別に大きな意味を感じるのです。

赤ちゃんということでもう一つ、赤ちゃんにやさしい図書館づくりの取り組みを紹介します。Baby Friendly Library と言っているのですが。
昨年9月の恵庭市立図書館でのシンポであるお母さんからこう言われました。「図書館は静かなところでなければならないと思われている。そんなことから赤ちゃんを連れて図書館に行くのはとても勇気のいることなのです」と。ブックスタートを始めたことが私達に赤ちゃんを大きく意識させることになったのですが、私達は次のような取り組みをしています。

*絵本コーナーから赤ちゃん絵本コーナーを独立させました。
*ベビーカーを入り口に2台設置しました。赤ちゃん連れの方にベビーカーを使ってゆっくり図書館をお楽しみくださいということなのですが、これは図書館利用者に対するメッセージでもあります。赤ちゃんが泣いても冷たい視線を投げかけないでほしい、温かく見守ってあげてほしい、というメッセージなのです。
*赤ちゃん用の椅子とテーブルを設置しました。子供用の椅子では赤ちゃんに危険です。高さ20センチぐらいの本当に小さい椅子を設置しました。赤ちゃんは安心して座れます。その椅子に座っている赤ちゃんは本当にかわいらしいものです。


このように赤ちゃんに配慮していることが図書館利用者に分かる、見えるようにする。このことが図書館の雰囲気を大きく変えます。ブックスタートを始めた相乗効果もあるのでしょう。図書館に赤ちゃんを連れていらっしゃる来館者は飛躍的に増えています。
赤ちゃんを抱える若い母親は赤ちゃんを連れてどこかに行きたいと願っているのではないでしょうか。しかし行くところがないのが実情です。図書館の催しに赤ちゃんの参加が飛躍的に増えたのを見て、つくづくそのように思います。彼女たちのニーズに応える道を見つけ出していきたいものです。

北海道の支援者さんのページへ